2023年6月9日付 中日新聞より
社報なかけん300号達成
中村建設 会社と社員、家族つなぐ
浜松市中区の中村建設が、社員や施主らに向けて発行している「社報なかけん」が今春に三百号を迎えた。創刊から六十一年間、現場で働く社員やその家族たちに会社の考えなどを伝える手段として役立ってきた。情報通信が高度化する現代でも、中村信吾会長「本社と現場の社員、社員の家族とのつなぎとして大切だ」と話、息の長い発行に向け、意を新たにしている。(武田弘毅)
創刊61年、紙発行続ける
同社は一九五五(昭和三十)年に設立。社報は「社内の話題を社員とその家族と共有することが大切」との考えで、七年後の六二年九月に創刊した。発行頻度は一~二カ月ごとから現在は年四回になり、今年四月に三百号記念号を出した。
これを機に過去の資料を社内で探したところ、社員寮から初期の社報が見つかった。第一号は題字が漢字の「中建」で、社訓や主な工事の一覧、砂防施工の注意、人事異動などを掲載していた。
当時は通信手段に乏しく、山間部や遠方の現場で数ヶ月間、寝泊まりすることもあり、社内の動きや経営方針が伝わりにくかったという。中村会長の父親で当時社長だった一雄氏の寄稿に「何の楽しみとてない辺境の地で、しかも楽しい家庭を離れた異郷の地で勤務を続ける諸君に、多少なりとも無聊(たいくつ)を慰め得るならば」とあり、社報が同僚たちの絆をつくる重要な手段として期待されたことが分かる。
現在は関係会社や施主、官公庁など社外を含め役千部を発行。遠方の現場や自宅の家族にも郵送する。編集責任者の戸田栄治社報委員長は「社員がどういう仕事をしているか。直接、家族に届けることで知ってもらえる」と、創刊以来続く、社報への思いを語る。
編集委員を務める六~七人の社員による「手作り感」も特徴。新入社員や年男年女の紹介、住宅や土木の施工現場の方向などの記事執筆や紙面デザインなどを社員自らが担う。
時代の変化をウケて、個人情報を厳しく管理するため、記事に登場する社員の名前をイニシャルにしたり、人事情報を載せなくなったりと編集方針を変更したこともある。それでも中村会長は「『不易と流行』の価値観が大事。時代とともに変わる部分があってもいいが、変えちゃいけないものもある」と話す。
家族を尊重する意識が強い同社の社風の中で「(一雄氏は)記録に残すことを大事にしていた」と中村会長。社報は、会社が刻んだ歴史を文書化するツールと位置付ける。スマートフォンやパソコンが普及する中だが、社員が編集した紙の社報は温かみがあり、保管もしやすい。効率的な伝達手段が登場しても、紙で発行を続ける方針だ。
「社報が仲立ちとなってコミュニケーションが取れるのであればこの上ない」(中村会長)。会社と社員、家族らをつなぐ「なかけん」の精神は今後も続く。